皆さん、ハリー・ポッターで一番印象に残っているキャラクターは誰でしょうか?
魔法使い以外で選ぶとしたら、このキャラクターが頭に浮かぶのではないでしょうか?
Netflixの公式Youtubeから

屋敷しもべ妖精のドビーだね!
むちゃくちゃなことしてるね🤭

英語だと「house-elf」と呼ばれてるよ
日本語版を読んだり、映画を観たことがある人なら、ドビーの話し方がちょっと独特なのは気づいていると思います。例えばこんな感じですね↓
「ドビーは悪い子!ドビーは悪い子!」
「ドビーは一生1つの家にお仕えするのです」
実はこの独特な話し方、英語の原書ではさらに面白い仕掛けがあります。そしてドビーの話し方を分析していくと、英語における「敬語」や「丁寧さ」の仕組みが見えてきます。
この記事でわかること
✅ ドビーの英語が「普通の英語」と違う3つの特徴
✅ 英語に「敬語」はあるのか?丁寧さの3つの表し方を解説
✅ ドビーの話し方は英語の丁寧さのどのレベル?
✅ 日本語版との翻訳の工夫(「役割語」とは?)
ドビーとは?原書での初登場
ドビーはHarry Potter and the Chamber of Secrets(ハリー・ポッターと秘密の部屋)で初登場する屋敷しもべ妖精(House-elf)です。
原書での登場シーンはこのセリフから始まります。
‘So long has Dobby wanted to meet you, sir … Such an honour it is …’
(日本語訳例:「ずっとお会いしたかったんです、ご主人様……こんな光栄なことが……」)Rowling, J.K.. Harry Potter and the Chamber of Secrets (English Edition) (p. 12). (Function). Kindle Edition.
すごく丁寧な表現をしている様子なのに、どこかユーモラスに聞こえる……それがドビーの英語の持つ不思議な魅力です。なぜそう感じるのか、一つひとつ見ていきましょう。
ドビー英語の特徴
ではさっそくドビーが話す英語の特徴を見ていきましょう!
① 「I」を使わず自分の名前を主語にする
最も目立つ特徴が、一人称に「I」を使わないことです。
| 話者 | 英語 |
|---|---|
| 普通の英語 | I came to warn you. |
| ドビーの英語 | Dobby has come to warn you, sir. |
英語として文法的な誤りではありませんが、日常会話でこの話し方をする人はいません。ではなぜドビーはこう話すのでしょうか。
自分のことを「I」ではなく名前で呼ぶのは、かなり子どもっぽい話し方に聞こえます。
過剰なほどの敬語で話すドビーが子どもっぽい話し方をすることで、コミカルでかわいいキャラクターになっています。

日本語でも自分のことを名前で呼ぶと子供っぽく聞こえるね
また、屋敷しもべ妖精は、魔法使いの家に縛られた存在です。
「私(I)」という独立した自我を持つ個人として自分を認識しない——そのような社会的・文化的な立場が、この一人称の使い方に表れているのかもしれません……🤔
② どこかぎこちない文法
次のセリフを見てください。
Dobby is always having to punish himself for something, sir.
(日本語訳例:ドビーはいつも、何かのことで自分を罰しなければならないんです、ご主人様)Rowling, J.K.. Harry Potter and the Chamber of Secrets (English Edition) (p. 14). (Function). Kindle Edition.
| 話者 | 英語 |
|---|---|
| 普通の英語 | I always have to punish myself for something. |
| ドビーの英語 | Dobby is always having to punish himself for something, sir. |
have to(〜しなければならない)は通常そのままの形で使います。
しかしドビーは is having to という形を使っており、ネイティブスピーカーが聞くとどこかたどたどしく、ぎこちない印象を受けます。
これは著者J. K. ローリングの意図的な設計です。教育を受けていない存在として描くために、ネイティブなら自然と使わないような言い回しをあえて使っているのです。
☕ マクドナルドのキャッチコピーも「あえて崩した英語」
「I’m lovin’ it」——マクドナルドの有名なキャッチコピーですが、実は文法的には少し引っかかる表現です。
love のような「気持ち・状態」を表す動詞(状態動詞)は、通常 -ing 形にしません。
「I love it.」が「(ずっと)好きだ」という安定した状態を表すのに対して、「I’m loving it.」は今この瞬間の興奮や熱量を感じさせます。文法を崩すことで、思わず目を引く表現になっているのです。
③ 相手への過剰な敬意と従属
ドビーの話し方の中で最も重要なのが、この特徴です。次のセリフを見てください。
… Harry Potter must not meddle in this, sir …
(日本語訳例:ハリー・ポッターはこのことに首を突っ込んではなりません、ご主人様)Rowling, J.K.. Harry Potter and the Chamber of Secrets (English Edition) (p. 189). (Function). Kindle Edition.
普通の会話なら “You must not meddle in this!” で十分です。しかしドビーは、いくつもの「敬意の表現」を重ねてきます。
| ドビーの表現 | 何を表しているか |
|---|---|
| Harry Potter(フルネームで呼ぶ) | 「あなた(you)」と呼ばず距離を置く。強い敬意と畏れの表れ |
| sir(文末につける) | 目上の人・主人への従属を示す敬称。現代の日常会話ではほぼ使われない格式ばった表現 |
| 文を長く・丁寧にする | へりくだりと丁寧さを重ねることで、対等でない立場を強調 |
これらが組み合わさることで、「主人に仕える存在」としての強い従属が表現されています。そしてここから、英語における「丁寧さ」の本当の仕組みが見えてきます。
「英語に敬語はない」は本当?英語の丁寧さの3つの仕組み
「英語には敬語がない」という言葉を聞いたことはないでしょうか?
確かに日本語のような「です・ます」「〜でございます」といった敬語の文法体系は存在しません。しかし、丁寧さを表す方法は確実にあります。英語では主に次の3つの方法で丁寧さを作り出しています。

どんな表現があるのか解説します!
① 助動詞を変える
もっとも基本的な方法です。can → could、will → would のように助動詞を変えるだけで、印象がガラッと変わります。
| 丁寧さ | 英語の例 | ニュアンス |
|---|---|---|
| ストレート | Open the door. | 🫵 命令・指示 |
| やや丁寧 | Can you open the door? | ✋ カジュアルなお願い |
| 丁寧 | Could you open the door? | 🙏 一般的な丁寧なお願い |
| より丁寧 | Would you mind opening the door? | 🙇 相手への配慮が強い表現 |
② 間接的な言い回しにする
直接的な表現を避けて回りくどくすることで、丁寧さが増します。遠回りに聞こえるほど、相手への配慮が伝わります。
| 直接的(カジュアル) | 間接的(丁寧) |
|---|---|
| I want to ask you something. | I was wondering if I could ask you something. |
| What’s your name? | Could I ask your name? |

こういう言い回しは日本語と似てるね
③ クッション言葉(softener)を加える
日本語の「恐れ入りますが」「よろしければ」にあたる表現が英語にもあります。文の頭に添えるだけで、ぐっと柔らかく丁寧な印象になります。
| クッション言葉 | 例文 | 意味 |
|---|---|---|
| I’m afraid… | I’m afraid I can’t make it today. | 残念ながら今日は伺えません |
| I was wondering… | I was wondering if you could help me. | もしよろしければ手伝っていただけますか |
| Would it be possible… | Would it be possible to reschedule? | 日程を変更することはできますか |
ドビーの話し方は、英語の丁寧さのどのレベル?
ここまで見てきた英語の丁寧さの仕組みを踏まえると、ドビーの話し方がどれだけ「普通の範囲を超えているか」がよくわかります。
💡 ドビーの敬語を整理すると…
🔹 you と呼ばず、フルネームで呼ぶ
→ 相手を遠ざける最大級の距離感
🔹 sir を文末に常につける
→ 現代では格式ばりすぎて日常では使わないレベル
※ 呼びかけなどでは今も使われています
🔹 自分を「I」と言わない
→ 自分を個人として主張しない従属の表現
これらはどれも、通常の「丁寧な英語」の範囲をはるかに超えていて、聞けば一発で「対等な関係ではない」「相当な下の立場だ」と伝わります。

だいぶ下から目線になってるんだね
日本語版のドビーはどう訳されている?「役割語」という工夫
日本語版でドビーは「ドビーは〜でございます」「〜であります」という独特の話し方をします。
これは言語学で「役割語」と呼ばれる表現技法です。キャラクターの社会的立場や性格を、話し方のパターンで伝える日本語特有の技法で、他にも「お嬢様キャラ=〜ですわ」「武士キャラ=〜でござる」などがあります。
| 言語 | 工夫の方法 | 与える印象 |
|---|---|---|
| 英語原書 | 名前を主語にする・ぎこちない文法・sir などの過剰な敬称 | たどたどしさ・強い従属 |
| 日本語訳 | 「〜でございます」など過剰な敬語+自分を名前で呼ぶ | 奉仕する存在・従属 |
アプローチは違えど、どちらも「主人に仕える、教育を受けていない存在」という同じイメージを読者に届けることに成功しています。翻訳家の工夫が光るポイントです。
まとめ
ドビーの英語の3つの特徴
① 「I」を使わず、自分の名前を主語にする
→ 独立した自我を持たない屋敷しもべの立場の表れ
② ぎこちない文法で、たどたどしい印象を与える
→ 教育を受けていないキャラクターとしての描写
③ フルネーム・sir・丁寧な言い回しを重ねて過剰に敬う
→ 英語の「丁寧さの範囲」をはるかに超えた強い従属の表現
英語の丁寧さは3つの方法で作られる
🔹 助動詞を変える
(can → could、will → would)
🔹 間接的な言い回しにする
(I was wondering if… など)
🔹 クッション言葉を加える
(I’m afraid / Would it be possible… など)
J.K.ローリングは「英語そのもの」を使って、ドビーの性格・立場・世界観を描いています。原書を読むと、ストーリーを追うだけでなく、こうした言語表現でより深くキャラクターたちの性格を楽しめます。それもハリー・ポッター原書の大きな魅力のひとつです🪄

楽しそうと思ったらハリポタ原書にもチャレンジしてみてね
他のキャラクターの英語も読んでみよう
ハリー・ポッターには、キャラクターごとに全く異なる英語が登場します。
例えば、ハグリッドは「ウェスト・カントリー訛り」というアメリカ英語のもとになったと言われるなまり方で話します。こちらも原書ならではの面白さがあります。
ハグリッドのなまりはこちらの記事で紹介しているので読んで見てください😊

それではまた次の記事で!



コメント